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STEP−5.  「水質の調整」  〜飼育水の水質を自由に操れるようになれば、上級アクアリスト!〜
前回は、飼育水槽内の不要な物質を除去してきれいな飼育水を維持するテクニックについて解説しましたが、今度はさらに一歩踏み込んで飼育水の水質を自在に操るテクニックについて考えてみたいと思います。

どうして水質調整が必要になるのか?
一口に熱帯魚と言っても世界中に分布しているのですから、その生息水域の水質はそれこそ千差万別です。例えば、東南アジアの熱帯雨林の中を流れる小川の水質は酸性の軟水ですし、アフリカ大地溝帯にあるマラウィ湖の水質はアルカリ性の硬水です。当然ある地域に生息している魚は、その生息地の水質を一番好むのです。
とはいっても、大部分の魚は水質に対する適応力があるためわが国の水道水(もちろん塩素中和したもの)での飼育が可能です。しかし、中には水質に敏感で生息環境と同じような水質を用意しなくては上手く飼育ができない魚も存在します。また、単なる飼育ならばあまり水質に気を配らなくても良い魚でも、こと繁殖と言うことになるとやはりきちんとした水質の調整が必要になってきます。
それでは、水質の調整について項目ごとに詳しく解説していくことにしましょう。

東南アジアのブラックウォーターに生息するチョコグラは弱酸性の軟水を好む。 マラウィ湖に生息するシクソラドはアルカリ性の硬水で飼育しないと調子をくずす。

PHとは?
PH(ペーハー)と言うのは、水中の水素イオン濃度を示す単位のことだが、PHに関する詳しい説明自体は熱帯魚飼育には直接関係が無いのでここでは割愛することにします。このPHの値が7.0のときを中性として、7.0よりも値が小さいときを酸性、7.0よりも数値が大きいときをアルカリ性と呼ぶことくらいをここでは憶えておけば充分でしょう。

ちなみにまったく不純物を含まない水(純水と呼ぶ)はPH7.0になります。ただし、ここで言う純水は厳密には科学的な行程をふまないと作り出すことはできません。例えば、水道の水やミネラルウォーター、山から湧き出たばかりの水も見た目はきれいでも様々なミネラルなどが含有されているため純水ではありません。

硬度とは?
硬度というのは、水中に溶けているカルシウムやマグネシウムの割合を示す指標のことで、アクアホビーでは総硬度(GH)と炭酸塩硬度(KH)が用いられているようです。

総硬度(GH)と言うのは、水中に溶けているカルシウムとマグネシウムの総量を示す指標で、通常わが国の水道水であれば3〜7くらいの値を示すはずで、これを軟水と言います。また、純水はGH0を示します。これに対して、総硬度の値が高い水質を硬水と呼びます。


炭酸塩硬度(KH)と言うのは、炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムが水中にどれだけ溶けているかをあらわした指標であり、KH値とPH値は密接な関係があります。つまり、炭酸塩硬度KHの値が上昇するとPHの値も上昇するのです。もう一つKHには非常に重要な水質の急変を抑える作用があります。これを緩衝能力と言い、KHの値が低い水質では魚の老廃物などで瞬時にPH値が低下したり、逆の場合もありえます。しかしKHの値が適正値であれば、飼育水のPH値は急変しにくくなります。

アクアホビーでは総硬度GHのほうが重視されてきたきらいがありますが、実際に重要なのは炭酸塩硬度KHの方なのです。

PHを上げる
マウティ湖やタンガニー湖の水はPHも硬度も高い特殊な水質。
前述のように、アフリカのマラウィ湖やタンガニーカ湖の水質はPH8.0〜8.5のアルカリ性の値を示します。また、炭酸塩硬度KHは10〜15位の値です。このような水質に棲むアフリカンシクリッドを上手く飼育するには、飼育水の水質を弱アルカリ性の硬水にキープする必要があります。水道水は地域による差が多少あるとは言うもののPH6.8〜7.2くらいでKH1〜5前後の数値であることが多いのでこのままではアフリカンシクリッドの飼育には適した水質とは言えません。

具体的にPHを上げるには2つの方法があります。一つ目は各メーカーから市販されているPH上昇剤を用いる方法です。この方法は非常に手軽にしかも瞬時に好みのPH値の水を作り出すことができます。しかし、PHだけを目的の数値にしてもKHが低いままでは飼育水のPHはすぐにもとの値付近にまで戻ってしまいます。最近ではメーカーの中にもPHとKHの密接な関係に基づいて、PHとKHの値を同時に上昇させるコンディショナーを発売しているメーカーも出てきました。具体的にはテトラ社のPH/KHプラスやセラ社のKHプラスなどがそういった特質をもっています。

PHの値を上昇させるもう一つの方法は、サンゴ砂を水槽内やフィルターの中に入れてPHや硬度を上昇させるやり方で、こちらの方法は以前から良く用いられてきました。確かにサンゴ砂を用いる方法のほうがより安価で手軽なのは確かですが、サンゴ砂の量が多すぎたり長期間水換えを行わないなどの諸条件により、飼育水PHや硬度は目的の数値をはるかに越えて上昇しつづける可能性があり、ベテランアクアリスト向けと言うことができるでしょう。

水質管理に自信がつくまでは、前者の方法を用いた方が無難です。また、どちらの方法にしてもPHとKHの値は定期的に測定するように心がけたいものです。

PHを下げる
東南アジアやアマゾン、西アフリカあたりの熱帯雨林を流れる小川の水質はPH6.0以下GHも1〜2くらいの弱酸性の軟水であることが多いようです。中にはアマゾン河の支流ネグロ川のようにPHが5.0以下のかなり強い酸性の水質もあるほどです。これらの水域に生息する魚を上手に飼育するには、やはり飼育水を弱酸性の軟水に調整する必要があります。
通常、わが国の水道水は軟水であるため硬度に関してはあまり気を使う必要はありません。ただし、PHの方はやはり何らかの方法で調整することが必要になります。

バルブスヤエやラミーノーズの美しい体色を見たいのなら、弱酸性の軟水は不可欠。

PHを降下させるには市販のPH降下剤を用いる方法と、ピートと呼ばれる木や草の腐食したものを利用する方法の2つがあります。確かに市販のPH降下剤を用いた方が簡単にPHの調整ができますが、市販のコンディショナーの中にはリン酸を主成分としたものがあり、これを用いるとPHは下がりますが、水中のリン酸濃度が上昇しコケの大発生をまねく事になりかねません。PH降下剤を用いる際には、主成分がリン酸ではないものを選ぶ方が良いでしょう。

本来、熱帯雨林の中を流れる小川のPH値が低いのは水底に沈む枯葉や流木などから染み出る腐食酸やタンニンによるものなので、同じ物質を使ってPHを降下させるピートを使った自然なPH降下をオススメします。さらに、ピートの中に含まれる腐食酸やタンニンなどが魚の繁殖を促進するという研究もあるほどです。

ただし、ピートを用いた水は茶色に染まってしまうため、これを嫌う人も多いのですが現地ではもともとブラックウォーターと呼ばれる茶色い水の中で棲息していた魚は、そのような水質の中でこそ本来の美しい色彩を再現してくれるのです。飼育水が茶色く染まる方がより自然で普通なのだと割り切りましょう。
ただ、PHの低い軟水ではろ過バクテリアの活動が阻害されるためにフィルターの能力が低下します。したがって、こまめな水換えなどの水質管理技術が必要となります。もし、まだ水質管理技術に自信が無いのであればPH6.0以下の極端な酸性の飼育水で熱帯魚を飼育するのは避けた方が無難でしょう。

炭酸塩硬度を操る
プラティやレインボーフィッシュはPHの低い水で飼育すると、調子が悪くなるので、PHとKHには気を配る。
PHや硬度に気を配る必要があるのは、飼育難魚を手がけるベテランアクアリストだけではありません。60cm水槽で色々な魚を一緒に飼育しているアクアリストにとっても水質の調整は必要です。特にわが国の水道水のKH値は前述のようにかなり低い値を示すので緩衝能力が低く、少しでも水換えをサボルと飼育水のPHは瞬く間に5.0位に低下してしまいます。飼育水槽内の魚にとっては、徐々にPHが低下していくために何とか適応することができますが、新たに購入してきた魚などをこのような水槽に導入するとPHショックを起こして最悪の場合死亡することさえあります。

よく初心者の方が直面するアクシデントに、前から飼育している魚は元気なのに新しく購入してきた魚だけが死んでしまうと言うものがありますが、このほとんどは飼育水のPHが極端に低下していることに気がつかないことに起因しているものです。このようなアクシデントは、飼育水のKH値をある程度上昇させておけば防ぐことができます。一度、ご自宅の水道水のKH値を測定してみてください。もし1〜3くらいの低い値を示すようであれば、前述のコンディショナーを用いてKHの値を5くらいまで上げておきましょう。そうすることによって飼育水は充分な緩衝能力を保有することになり、飼育水を絶えず中性付近にキープすることができるようになります。

リバースオスモシス(R.O.)の使用について
ディスカスやアピストの仲間を飼育しているアクアリストの中にはリバースオスモシスというシステムを使って水を純水に近いものにしている人もいます。これは逆浸透膜の原理を応用して水道水から不純物質を除去し、限り無く純水に近づけると言うものです。また、イオン交換樹脂にも同様の働きがあります。ただし、これらを用いるには充分な知識が必要で、むやみやたらに利用すればよいと言うものではありません。
確かにヨーロッパのハイアマチュア達はこのシステムを使用することがあたりまえのようになっていますが、これはヨーロッパの水質が劣悪で不純物質の含有量が多いことによるものです。かの地の水質が劣悪なことはヨーロッパの多くの場所で蛇口から出てくる水道水を飲用に用いないことからも想像できます。したがって、彼らはリバースオスモシスを使って、一度水道水中の不純物質を除去しなければ熱帯魚飼育に適した水が作り出せないからなのです。

ここで、重要なのは彼らは作り出した純水に様々なミネラルを加えて、目的の水質に作り変えていると言うことなのですが、わが国のアクアリストの中にはただひたすらリバースオスモシスを通した水で熱帯魚を飼育すれば良いという誤った認識を持った人が多く見うけられるのは残念なことです。純水には緩衝能力がまったくありませんから、このような水で熱帯魚を水槽飼育するなどと言うことは実にナンセンスなことなのです。

結論を言えば、わが国でリバースオスモシスやイオン交換樹脂を必要とするのは、ごく一部のハイレベルのアクアリストかプロブリーダーだけと言うことができるでしょう。
汽水魚の飼育について
ミドリフグやスキャットは本来は海水で飼育した方が良い魚。
数ある熱帯魚の中には、河口付近の淡水と海水が混じりあうような場所に生息している魚もいます。ミドリフグやライオンフィッシュなどがそれで、一般に汽水魚と呼ばれています。汽水魚は淡水中ではあまり長生きしてくれません。

これらの魚を上手く飼育するには、飼育水中に適度な塩分が溶けていることが必要です。よく食塩を飼育水に溶かしている人がいますが、食塩はほとんど100%塩化ナトリウムなので、本来海水に含まれているカルシウムやマグネシウムなどのミネラルはほとんど含有していません。汽水魚を上手に飼育するにはやはり人工海水か最低でも荒塩を用いるべきで、これらを海水濃度の半分くらいの量飼育水に溶かして飼育すると上手くいきます。ただ、飼育水の塩分濃度は水換えや水の蒸発などで変化してしまうので、海水魚飼育に用いるボーメ計を用いて絶えず飼育水中の塩分濃度を測定しましょう。



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